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ステーキの供給システム事件

2019/01/30

 ステーキ提供の新業態で有名な会社の「ステーキの供給システム」に係る特許が異議申し立てで取り消された後、この取消決定が知財高裁で取り消された「ステーキの供給システム事件」について紹介します。

 

 本件では、特許請求の範囲で特定された「ステーキの供給システム」が自然法則を利用した技術的思想である発明に該当するか否か(特許法29条1項柱書の要件の該当性)が争われました。
 結論から述べると、知的財産高等裁判所において、本件特許発明は、人の手順である要件を含むものの、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」すなわち発明に該当する、と判断されました。
 

本件特許発明(請求項1のみ)
 本件特許発明(請求項1)を要件ごとに分説すると、以下の通りです。
A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、
B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、
上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、
上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、
G ステーキの提供システム。

 
裁判所の判断(要約)
 本件特許発明は、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供する」ことを課題とする。要件Aにより、お客様が好みの量のステーキを食べることができるとともに、ステーキを安価に提供することができる。また、本件計量機等に係る構成要件B~Fにより、「お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止する」との効果を得ることができる。
ここで、要件Aは、本件明細書において、人が行うことが想定されており、実質的な技術的手段を提供するものであるということはできない。一方、構成要件B~Fの計量機等は、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏する。この効果は、お客様に好みの量のステーキを提供することを課題として、構成要件Aを採用したことから、不可避的に生じる要請を満たしたものであり、上記課題解決に直接寄与する。
以上によると、本件特許発明は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。
 
知見
 特許庁(異議申し立ての合議体)は、本件特許発明の課題を解決するのは、要件Aであるとして、物である要件B~Eの技術的意義を認めませんでした。
 これに対して本件判決では、物である技術的手段によって、肉の混同防止の効果が得られ、この効果が課題解決に寄与する、として自然法則の利用性を認めました。
 また、被告は、構成要件である「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」間での情報伝達主体が請求項で特定されていないとか、これらは、それぞれ独立して存在して、単一の物を構成するものではなく、個別の物の機能の利用態様が特定されているにすぎないとか、の主張を行いましたが、これらの主張は退けられました。
 
 今まで特許出願を検討しなかった発明、出願をあきらめていた発明も、自然法則を利用して課題解決に寄与する技術手段を含むのであれば、特許される可能性がありそうです。別の見方をしますと、今まで特許と無縁と思われていた業界でも、特許による自己の事業の保護、他者による参入障壁の構築が促進されるかもしれません。
 
判決文(知財高裁HPへのリンク)
http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/058/088058_hanrei.pdf
 


 
記事担当者:特許4部 坂手 英博
 
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