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所長メッセージ

2019/10/11
吉野彰さん ノーベル化学賞おめでとうございます


 本年度のノーベル化学賞は、旭化成名誉フェローの吉野彰さんが受章するとの発表がありました。心からお祝いを申し上げます。
 日本人では27人目の受賞者であり、企業勤務者が受章するのは極めてまれなことです。ノーベル賞のほとんどは、学者が受章していますので、大変に嬉しく思います。吉野さんは、40年近く前にリチウムイオン電池の開発を始め、3年後には基本特許を出願しましたが、商品化までには10年以上かかっています。
 発売当初は、まったく売れなかったようですが、携帯電話などのモバイル機器に搭載されてから急速に売れ行きが伸びました。従来の充電可能な電池よりも、小型軽量大電流で多数回の繰り返し使用に適しています。従来の充電可能な電池は途中で充電すると電池容量が減少するメモリー効果がありましたが、これが解決されています。開発当初は、発火するなどの危険性がありましたが、技術的にこれを解決し、まだまだ改良の余地はありますが、性能も向上して現在では充電可能な電池の王様といえるまでに進歩しました。
 吉野さんが開発したのは、コバルト酸リチウムという電極材料です。この材料に至るまで、及びその後の製品化までには、長い道のりがありますが、繰り返しの試行錯誤と、目的達成までの地道な努力が実を結ぶことになります。エジソンやノーベルなどの偉大な発明も、簡単に言ってしまえば、選択行為の結果です。これらの偉大な功績を後になって解説するのは簡単ですが、行きつくことが保証されていない、見えないゴールに向かい続ける勇気と、それを支える周囲の貢献は称賛に価します。
 このように、10年もの長い研究開発期間を認めてくれる企業数は少なくなっています。欧米の利益優先思想が蔓延している現在では、極めて短期の開発テーマしか認めてくれません。しかも、開発予算を削って数字上の利益を優先する傾向にあります。オープンイノベーションの風潮ですが、見方を代えれば、基礎研究はしないで、成功可能性の高い完成に近い技術だけを外部から買えば良いとの考え方が強いともいえます。従来のように、何から何まで自社開発するのが良いとは決して思いませんが、開発期間や予算を単純に削減するのも良いとは言えません。確実に出来ることにしか予算を出さない組織では、イノベーションとは縁遠く、大きな花は咲かすことはできないし、衰退を招く危うさが高まります。
 大きな目標に向かって大いなる成果を期待し、それを実現することこそが、その組織が果たすことが出来る最上の社会貢献だと思われます。
 
太陽国際特許事務所
会長 中島 淳