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取引先から不利な契約を結ばされないように
~製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査について(紹介)~

2019/08/20


 公正取引委員会では,製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査を実施し,その結果を令和元年6月に公表しております。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190614.html
 
 当該実態調査の報告書について紹介したいと思います。
 

 
●調査の概要
 平成30年10月~11月にかけて,製造業者30,000社に対する書面調査を実施(中小企業26,300社,大企業3,700社),15,875社から回答(52.9%)を得ています。
 726件の個別事例報告(641社)が報告されました。
 
●優越的地位の濫用に該当する可能性のある事例
 報告書では,報告された事例のうち,優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号ロ又はハの行為)に該当し得るものを参考事例として8つの類型毎に掲載しています。
 以下,事例の一部について紹介します。

01 秘密保持契約・目的外使用禁止契約無しでの取引を強要される
事例6 自社で製造している特殊な生地に関して,製造を再現できてしまうほどの技術情報(ノウハウ)を無償で開示させられる(繊維工業)
 
02 営業秘密であるノウハウの開示等を強要される
事例12 発注内容に含まれていなかった金型設計図面やその他の技術データを後から全て無償で提供させられる(生産用機械器具製造業)
 
03 ノウハウが含まれる設計図面等を買いたたかれる
事例15 金型だけを納品する取引から,金型に併せて自社のノウハウが含まれる金型設計図面等の技術資料も納品する取引に変更したにもかかわらず,対価は一方的に据え置かれる(金属製品製造業)
 
04 無償の技術指導・試作品製造等を強要される
事例16 転注先の海外メーカーが図面どおりに製造できなかったという理由で,当該海外メーカーの工員に対して,自社の熟練工による技術指導を無償で実施させられる(生産用機械器具製造業)
事例17 継続的に取引している取引先から,発注とは別に,先方が提示する技術的な課題を研究するよう一方的に指示され,取引を継続するために,全額自己負担で取引先のために試作品の製造や実験等を繰り返しさせられる(輸送用機械器具製造業)
 
05 著しく均衡を失した名ばかりの共同研究開発契約の締結を強いられる
事例18 ほとんど自社の技術を用いて行う名ばかりの共同研究開発であるにもかかわらず,その成果である新技術は,発明の寄与度に関係なく,全て取引先にのみ無償で帰属するという取引先作成の雛形で契約させられ,新技術を奪われる(ゴム製品製造業)
 
06 出願に干渉される
事例19 取引とは直接関係のない,自社だけで生み出した発明等を出願する場合でも,取引先に事前に出願内容を報告し,修正指示があれば,見返りなしで応じることを余儀なくされる(その他の製造業)
事例21 完全に自社単独で生み出した技術であるにもかかわらず,取引先から共同出願とするよう強要されるとともに,自社が第三者へのライセンスを行う場合のみ取引先の承諾が必要となる契約まで締結させられる(輸送用機械器具製造業)
 
07 知的財産権の無償譲渡・無償ライセンス等を強要される
事例23 取引先に特許権の持分の2分の1を無償譲渡させられた上,自社から第三者への実施許諾時にのみ取引先の承諾を得なければならないという契約まで締結させられる(化学工業)
事例25 取引先に開示・提供したアイデアや技術等の知的財産は,取引先が無償かつ無制限に使用することができるという一方的なライセンス条項を受け入れることを余儀なくされる(石油製品・石炭製品製造業)
 
08 知財訴訟等のリスクを転嫁される
事例29 取引先の指示に従って加工するだけの取引であるにもかかわらず,納品した製品に関して知的財産訴訟等が生じた場合,その責任を全て負わなければならないという取引条件を一方的に設定される(金属製品製造業)

製造業者が取引先の要請を受け入れた理由

 製造業者は取引先から上記事例のような要請をなぜ受け入れたかについて書面調査において質問したところ(複数回答可),主として以下の理由が得られております。
 
・「取引先から今後の取引への影響を示唆されたわけではないが,その要請を断った場合,今後の取引への影響があると自社で判断したため。」(36.2%)
・「取引先から今後の取引への影響を示唆され,受け入れざるを得なかったため。」(24.6%)
・「取引先は市場におけるシェアの高い有力な事業者等であり,取引を行うことで将来の売上高の増加や自社の信用力の確保につながると判断したため。」(18.8%)
 
 また,有識者等からのヒアリングにおいては,「ベンチャー企業の場合は研究開発に係る投資が先行しているため,それを回収するために著しく不利な取引条件でも応じなければならないことがある」,「古くからある業界の場合,秘密保持契約無しでの取引が商慣習のようになってしまっているため,中小企業から取引条件の改善を申し出るのは難しい」などの意見もありました。

調査結果に対する公正取引員会の評価と対応

1 評価
 今回の調査結果について,調査を実施した公正取引委員会は以下の評価をしております(下線は当方が付したものです)。
「製造業者が研究開発等の末に獲得したノウハウや知的財産権は,当該事業者の競争力の源泉となるものであり,秘匿しておきたいノウハウを意に反して開示させられたり,苦労して取得した知的財産権を意に反して無償譲渡・無償ライセンス等させられたりするのでは,当該事業者の知的財産戦略自体が成り立たなくなってしまう。
「優越的地位の濫用規制については,これまで,資金・設備・従業員数等の制約から容易に取引先の変更・拡大を行うことができない(劣位に陥りやすい)中小企業の問題として取り上げられることが多かったが,大企業であっても,川下市場の寡占化が進んでいたり,取引先から事業経営上不可欠の技術や原料の供給を受けていたりするなどの事情があれば,優越ガイドラインにいう,取引先との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,取引先から著しく不利益な要請等を受けても,これを受け入れざるを得ないような状況は起こり得るものであり,事業者においては,たとえ相手の製造業者が大企業であっても,優越的な地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるようなことがあれば,優越的地位の濫用規制上の問題となり得ることに留意が必要である。」
2 対応
 調査結果を踏まえ,公正取引委員会では,以下の対応を行うとしております。
① 経済産業省・特許庁と連携し,製造業全体に参考事例集を含めた調査結果を周知
② 引き続き優越的地位の濫用行為等の情報収集に努めるとともに,違反行為には厳正に対処(下請法違反行為については,中小企業庁と連携して厳正に対処)

ポイント

◆ 公正取引委員会の審査により優越的地位の濫用の違反行為が認められた場合,排除措置命令の行政処分を受けることになります。また,平成21年の独占禁止法改正により,優越的地位の濫用が行われた場合には,政令で定める方法により算定した売上額の1%が課徴金として課される可能性があります。
◆ 製造業者としては取引への影響を考えた結果,不利な要請を受け入れていることもあり,一旦結んだ契約について優越的な地位にある取引先に対して改善を申し出るのは難しいという現状があります。そのため,契約を結ぶ段階で,契約内容について慎重に検討し,相手方と協議を重ねる必要があります。
◆ 一方,取引上優越的な地位にある事業者は,一方的に優位な契約を立場の弱い相手方に対して結んでしまわないよう留意する必要があります。
 
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