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「特許権侵害の訴訟に巻き込まれた!」第1話
~担当者の多忙さと苦悩についてシミュレーション解説します~

2021/01/18

 特許権侵害訴訟においては、ある日突然に自社が裁判に巻き込まれることがあります。あなたの会社は被告として、この裁判へ対応する必要があり、あなたは知的財産担当者として、数か月~数年にわたり、ある意味で極めて多忙で悲惨な毎日を過ごさなくてはなりません。
 このような事件発生は無いことが望ましいのですが、ある日突然に発生し、避けることができない場合が多いのも事実です。また、対応する間は、極めて多忙で結果の見えない日々の連続となり、しかも「裁判に勝って元通り」という何の収穫もない場合がほとんどです。
 この記事は、代理人サイドの訴訟日誌の形態で、企業の知的財産担当者の立場と代理人である弁理士の立場からの両視点で、どのような日々を過ごしていくかをシミュレーションした内容となります。この記事が、皆様における突然のリスクへの対応のための一助になれば幸いです。
 
(なお、この記事の内容は、弁理士 黒田 博道が過去に扱った多くの特許侵害訴訟の経験に基づくシミュレーション(フィクション)であり、実際の案件とは異なる部分があります。また、この記事は、訴訟戦略や進行の良し悪しを説明するものではありません。突然の事態に、いかに多忙な日々を過ごすことになるかを体感していただくための資料です。)

 
本件担当 弁理士 黒田 博道
 
 

 この記事は、複数回に分けての配信を予定しております。また、本記事は、後日当事務所のホームページに掲載予定です。今回は、掲載に先立って、御社へご案内させていただきました。今回は第1回の記事ですが、第2回以降の記事も後日メールにてお届けします。これらの記事がご不要の場合には、お手数ですが、その旨ご連絡下さい。

シミュレーションの設定

<被告(今回の依頼人)>

 病院向けの医療診断治療投薬のワークフローシステム『院内手配名人』を主力製品にしている「北柴電子株式会社」。創業10年、従業員200名、売上60億円の優良企業である。
 社内には知的財産専門部署が無く、特許出願などの知財活動は、開発部の部長と若手社員が兼任している。今回メインの担当者として指名されたのは、開発部に所属し、特許出願を担当している野口英代さん(入社3年目)。
 

<原告>

 ウイルス工業社。幅広い分野のソフトウェアを開発している、業界大手の有名外資系企業。本社は米国にあり、従業員数は全世界で数万人規模。一方で、世界中でライバル会社に対する特許侵害訴訟を提起している超攻撃型の企業として有名である。
 

<訴訟対応カレンダー>

 下記のカレンダーの内、「緑の日付」は、裁判の提起日及び裁判所への出廷日を示す。また「赤の日付」は、依頼人と代理人が、裁判関係の打ち合わせを行った日を示す。もちろん、各担当者は、「赤の日付」以外の日にも、裁判関係の調査あるいは検討を行っている。

【第1週(訴状受理)~第2週】

 原告である『ウイルス工業社』から、平成18年1月15日に東京地方裁判所に訴状(注1)が提出されました。訴訟内容は、特許権侵害に基づく差止請求及び損害賠償請求事件です。
 
(注1:訴状とは、裁判を起こすために裁判所に提出する書類です。訴状には、裁判を起こした人(原告)が、その言い分を記載して裁判所に提出します。裁判所は、訴状を受理すると、その相手方(被告)に対して、書留郵便でこれを送達します。被告は、この副本を受け取ることで、裁判が起こされたことを知ることになります。)
 
 通常、訴状の副本(写し)は、裁判所への訴状提出日から10日ほどで、書留郵便にて裁判所から被告へ送られます。今回は、平成18年1月24日に北柴電子株式会社へ、裁判所から訴状の副本が届きました。訴状には、「第1回目の法廷は、平成18年2月20日(火曜日)」と記載されていました。
 

(北柴電子株式会社社長の日誌より)

<北柴電子株式会社内の混乱>
 訴状の副本は、受付から会社内の総務部長に届けられました。開封した総務部長は対処に迷いましたが、北里柴郎社長に報告することにしました。
 訴状には、自社が販売している病院向けワークフローソフトである「『院内手配名人』が、原告(ウイルス工業社)の特許権を侵害している」、と書いてありました。そこで、北里社長は、開発部長を読んで、訴状にある特許権を侵害しているかどうかを問いました。
 しかし、開発部長は「見当がつかない」と答え、居合わせた誰もが、「『院内手配名人』は、苦労して独自に開発したソフトウェアであり、そんなはずはない!!」との意見でした。いくら議論しても、現場は混乱するばかりで、対策は一向に浮かびません。
 訴状には、当社の製品である「『院内手配名人』の販売の差し止めと、損害賠償を求める」と記載してありました。この記載に、集まった一同は、背筋が凍る思いでした。なぜなら、『院内手配名人』は、今や北柴電子株式会社のビジネスの80%を占めており、この製品の販売ができなくなれば、それは直ちに会社の倒産を意味することになってしまうからです。
 社長室での議論混迷は、たちまち全社内に伝わり、社内は大混乱状態になってしまいました。困った挙句に、私(社長北里)は、時々特許出願を依頼している黒田弁理士に対応を依頼することにし、電話にて1月29日に訪問アポをとりました。
 

(北柴電子株式会社、野口英代の日誌より)

 北柴電子株式会社に入社後、開発部で3年経ったある日、社長室に呼びだされた。突然の呼び出しに、過去の自分の行動を振り返りながら「もしかしたら自分に何か落ち度があったのだろうか・・」などと、ドキドキしながら社長室の戸を叩くと、中では社長と開発部長が厳しい顔つきで待っていた。極度の緊張状態に達した私に開発部長が伝えたのは、「他社から特許侵害で訴えられたこと」及び「私がメインの担当者として選ばれたこと」であった。
 若干面くらいながらも、自分の落ち度が理由ではなかったことに安堵し、メインの担当となることを軽い気持ちで了承した。
(その後、私はかつて味わったこともないような多忙と苦悩を味わいながら、何度も「この時点で断っておけば良かった」と後悔することとなる。。。)
 

~第2話へと続く~

 
記事担当者:弁理士 黒田 博道
 
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