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「ノウハウと特許の使い分け」シリーズ
  第8回 ヒトがノウハウを持ち出す?

2021/02/10

1.多くのノウハウ漏洩はヒトが介在

 コロナウイルスへの緊急事態宣言下では、在宅勤務が急激に増えました。これによって社内秘密情報の不用意な漏洩が問題視されています。多くは、在宅勤務者のパソコンを通じて会社のサーバーへ不正にアクセスされ、社内情報が漏洩します。私用のパソコンで会社のサーバーへアクセスする場合に、セキュリティレベルが低下していることも指摘されています。
 しかしながら、部外者が単に社内の秘密情報を入手したからといって、簡単に重要な社内ノウハウが知られてしまうという危険性は低い場合もあります。顧客や取引先名簿は、知られれば悪用は簡単です。ところが、製造ノウハウとなると、単に設計図や品質管理情報などが知られても、最も重要なモノづくりノウハウが悪用されるとは限りません。設計図などの書面情報に加えて、それに付随する解説や機械の操作内容などの現場情報が伴わないと、同じ品質の製品は作ることができない場合が多いからです。

2.会社内の体制

 実社会での、重要なモノづくりノウハウは、設計図などの図面に加えて、製造現場での社員の頭脳内に存在する知識や経験が他人に伝授されることにより致命的な漏洩状態となります。反応処理炉の設定温度や操作手順は、仕様書として書面化されていますが、どのような材料をどのようなタイミングで反応させるか、設定温度に対しての誤差対応やタイミングなど現場の操作感覚までは記載してないことがほとんどです。これらは、現場の社員が苦労して手に入れた貴重なノウハウです。そのほかにも、製造工程での前処理や後工程での調整作業など、製造現場での大小のノウハウは社内に多く存在します。
 このような熟練社員や技術者が保有する貴重なノウハウが、社員の頭脳内から不用意に社外へ漏洩しないための工夫が必要です。このためには、全社員がこれらのノウハウを社外へ漏洩させないような意識と行動をとる体制が大切です。その対策としては、社内規則の明確化や社員教育があります。それよりも大切なことは、全社員に、我が社を自分たちで守り発展させるという愛社精神を持ってもらうことです。自分たちの会社を愛さないでは、会社の秘密を守る意識も高まりません。

3.退職者への対応

 残念ながら、退職を余儀なくされた社員が海外の企業へ再就職し、社内の根本的な技術ノウハウを大量に漏洩させる事件が相次ぎました。これによって、日本企業の競争力が大幅に後退した時期がありました。ノウハウ漏洩は秘密裡に進行し、気がついた時には取返しが付かない状態になっていることがあります。現役社員や退職者による秘密漏洩防止への十分な各種の対応を、各企業や組織が備えることを切に望んでいます。


 
記事担当者:知財ソリューション部
 
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