欧州単一特許・統一特許裁判所 施行の見通し
2022/04/11
2012 年に欧州統一特許裁判所協定の署名がなされたものの、その後、BREXITやドイツ憲法裁判所への違憲申立を経て、施行が大幅に遅れていましたが、2022年中にも施行される可能性が出てきている状況です。日本の出願人において注意すべき事項を以下の通りまとめました。
1.対象国(批准国)
オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデン(加えて、ドイツが批准することにより施行される)
※2022/04/06時点
2.制度概要
大きく2つの制度から成り立っています。(1) 従来の欧州特許(EP)に加わる新しい有効化の枠組みとしての欧州統一特許、 及び(2) 裁判管轄に関する欧州統一特許裁判所です。
- (1) 欧州統一特許(UP)
- EP出願で特許査定が発行された後に有効化する国を選択するにあたり、対象国を単一のまとまりとして有効化し、その後の年金支払いもまとめて行えるようになります。
- ただし、EPC加盟国(38 ヶ国)のうち、EU加盟国(27 ヶ国)の中でさらにUPを導入する国のみが対象となります。
- 利用に際しては、有効化を希望する国を個別に指定した場合との料金の差異がひとつの判断基準になります。ただし、この選択をした場合は、特許権が必ず欧州統一特許裁判所の管轄下になることに注意が必要です。
- (2) 欧州統一特許裁判所(UPC)
- 前述のUPに加え、従来型EP(制度開始前からの既存の特許も含みます)の特許訴訟及び取消訴訟も欧州統一特許裁判所が管轄することになります。
- 移行期間(制度発効から7年間、延長可)においては、適用除外(オプトアウト)の手続きを行うことにより、従来のEPをUPCの管轄外とする措置が可能です。オプトアウトのためには庁費用は不要であり、代理人費用のみが必要となる予定です。
- また、オプトアウトに関連して、サンライズ・ピリオド(UPCが本格的に運用される前の3ヶ月間)に留意が必要です。この期間に、特許権者は制度開始に先立って欧州特許(EP)についてオプトアウトを申請することができます。UPCの運用後に訴訟(侵害訴訟・無効訴訟)が開始された場合はその後のオプトアウトが不可能になるため、確実にオプトアウトするためにはサンライズ・ピリオド中に手続きをとる必要があります。
3.日本の出願人様にて検討すべき事項
- (1) UPの利用予定の検討
- UPが利用可能になった際に利用するかどうかをあらかじめ検討しておくことが推奨されます。
- また、UPを利用するために現在係属中のEP出願の審査を遅延させる検討を行うことも考えられます。
- (2) オプトアウト要否判断
- オプトアウトをするのかしないのか、またする場合にどの特許権を対象とするのか、あらかじめ検討しておくことが推奨されます。また、サンライズ・ピリオドの開始時期を注視し、期間になったら迅速に手続きを行うよう準備しておくべきと考えられます。
施行時期やサンライズ・ピリオドの開始時期が明らかになりましたら、弊事務所より報告申し上げます。どういう基準でオプトアウトを選択すべきかなど、特許戦略に関わるお問い合わせがございましたら、弊事務所へご連絡賜りますようお願い申し上げます。
記事担当者:外国統括管理部 設楽 修一
外国情報グループ 欧州チーム
弊事務所においては、各銀行や各現地代理人を通じて情報収集に努めております。手続きについてご不明な点やお困りの状況がございましたら、弊事務所へお問い合わせいただきますようお願い申し上げます。
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