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AI(Artificial Intelligence)の発展と知財保護(第1回/全5回)

2018/06/22(更新:2020/11/13)

1. AI(Artificial Intelligence)の発展


 近年、人工知能(AI : Artificial Intelligence)が盛り上がりをみせています。この盛り上がりは第3次人工知能ブームともいわれ、様々な分野においてAIが活用され始めています。近年の傾向では、コンピュータよりも人間の方が得意である、とされていた分野においてもAIの活用が広がっています。
 例えば、囲碁や将棋の分野では、囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」が世界チャンピオンを破り、将棋AI「Ponanza」が名人を下し、世間に大きな衝撃を与えました。産業界でもAIの活用は広がっており、今後、AIは更に様々な分野へ浸透していくと予想されます。

2. AIとは何か


 近年、代表的なAIとして挙げられるのが、ニューラルネットワークとディープラーニングとの組み合わせです。ニューラルネットワークは、かなり前から知られていた技術ですが、ディープラーニングは、トロント大学のヒントン教授らによって2012年に開発されました。
 ニューラルネットワークは、図に示されるように、人間の脳の構造(ニューロンとそれを繋ぐシナプスとからなる構造)を模したものであり、コンピュータ上で実現されます。このニューラルネットワークは、ニューロンに対応するノードとシナプスに対応するエッジとからなり、入力層、中間層、及び出力層から構成されています。
 ニューラルネットワークは、入力層から入力された入力データに対して、中間層において処理を行い、出力層から出力データを出力します。また、学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させることにより、入力データに対して適切な出力データを返すことが出来るようになります。更に、ニューラルネットワークの中間層の層数が多いほど、より複雑な情報処理を行うことが可能となり、より適切な出力データを出力することが出来ます。
 例えば、犬の画像と猫の画像の学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させると、学習済みのニューラルネットワークが得られ、この学習済みのニューラルネットワークに判別対象の画像を入力すると、判別対象の画像に映っているものが、犬であるのか猫であるのかについての判別結果が出力されます。
 従来のニューラルネットワークの学習方法では、中間層の層数を増加させた場合にうまく学習させることが困難でしたが、ディープラーニングの登場により、中間層の層数を増加させた場合であっても、ニューラルネットワークを適切に学習させることが出来るようになりました。これにより、ニューラルネットワークの精度が劇的に向上し、今日のような広がりを見せています。

3. AIはどのようなものに適用可能か

 前述したように、AIは、学習用データを用いて学習することが出来ます。このため、学習用データを用意すれば、様々な分野へAIを適用することが可能です。ただし、精度の良い結果を得るためには、対象のデータに適したAIを、十分な量の学習用データによって学習させる必要があります。
 このため、膨大な量の学習用データとそれに適したAIとを用意し、そのAIを適切に学習させることが出来れば、従来では人間の方が得意である、とされていた分野の情報処理であっても、AIによって置き換えることが可能になってきています。
 例えば、従来では、翻訳は人間にしか出来ない、機械による翻訳では自然な翻訳結果が得られない、ともいわれていました。しかし、Google社から提供されているGoogle翻訳は、実に自然な翻訳結果を返してくれます。このGoogle翻訳には、リカレントニューラルネットワークという、機械翻訳に適したAIが用いられており、かつ、異なる言語間の対訳データが学習用データとして用いられています。[1][2]
 このほかにも、画像認識、音声認識、質問応答、及び商品推薦など、従来では人間の方が得意であり、機械によって置き換えることは難しいとされていたものであっても、機械によって置き換えることが可能になってきています。

4. AIと産業革命と特許

 このようなAIの進展によって産業構造は変化しており、この変化は第4次産業革命ともいわれています。歴史を振り返ると、過去の産業革命は様々な技術によって引き起こされてきました。
 例えば、第1次産業革命を引き起こしたのは、ワットが改良発明した蒸気機関でした。また、第2次産業革命は電力技術等によって引き起こされ、第3次産業革命はコンピュータ技術等によって引き起こされました。今回の第4次産業革命は、AI技術等によって引き起こされています。
 これまでの産業革命においては、特許制度が重要な役割を果たしてきました。
 例えば、第1次産業革命が起こった当時、蒸気機関は既に知られた技術でしたが、ワットは復水器を備えた蒸気機関を発明し、特許を取得しました。この特許は投資家を引き付ける役割を果たし、特許が公開されたことにより発明の連鎖反応が引き起こりました。[3]
 これにより、当初、ワットの蒸気機関は鉱山で用いられましたが、工場、蒸気機関車、及び蒸気船等にも転用されて爆発的な広がりを見せ、世界は急速にグローバル化しました。
 第1次産業革命と同じようなことが現代でも起きています。AIに関するブレイクスルーが起こったとされる2012年当時、ニューラルネットワークも既に知られた技術でしたが、トロント大学のヒントン教授らによりディープラーニングが再発明されました。[4][5]
 その後、ディープラーニングとニューラルネットワークは様々なものへ適用され、爆発的な広がりを見せています。また、GAFMA(Google, Amazon, Facebook, Microsoft, Apple)と称される企業群は、この分野の特許を数多く出願しています。[6]

5. まとめ

 今後、AIは更に様々な分野へ浸透していくと考えられます。これに伴い、AIの発明が急増し、多くの特許出願がなされることが予想されます。上述したように、GAFMAは、既にAIの特許を数多く出願しています。
 AIを用いたビジネスを展開する際には、その知財保護を検討する必要があります。しかし、この分野は新しい分野でもあるため、現状では、AIの知財をどのように保護すればよいのかについての情報が少ない、という状況です。そのため、今後、弊所では、AIと知財に関する情報を適宜提供していきたいと考えております。
 

 

参考文献

[1]中澤敏明、「機械翻訳の新しいパラダイム」、情報管理. 2017, vol. 60, no. 5, p. 299-306
[2]Wu, Yonghui. et al. 'Google's neural machine translation system: Bridging the gap between human and machine translation.', <URL:https://arxiv.org/abs/1609.08144>
[3]マークブラキシル、ラルフエッカート、「インビジブル・エッジ:その知財が勝敗を分ける」、文芸春秋、2010年
[4]Stanford Vision Lab:Large Scale Visual Recognition Challege 2012, ILSVRC2012,<URL:http://www.image-net.org/challenges/LSVRC/2012/>
[5]小野潔、「Deep Learning 入門」、INTEC TECHNICAL JOURNAL 2016第17号
<URL: https://www.intec.co.jp/company/itj/itj17/contents/itj17_28-35.pdf>
[6]河野英仁、「ビッグ5の特許出願動向と各社の重点分野」、日本IT特許組合、TechTrendセミナー資料、2017年8月22日


 
記事担当者:特許2部 田中 宏明
 
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