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カナダ最高裁判決

2017/07
~発明の有用性に関する約束理論の否定~


 カナダ最高裁は、Astrazeneca Canada Inc. v Apotex, Inc. 2014 FC 638事件において判決を下し、発明の有用性"utility"に関する約束理論を否定しました。
 
<背景>
 カナダでは、新規性及び非自明性に並ぶ特許要件の一つとしてutilityが求められております。utilityの有無はいわゆる約束理論"promise doctrine"に基づいて判断され、出願人は、クレームに係る発明が明細書に記載されたすべての約束された用途において有用であることを出願以前に立証する必要があります。しかしながら、特に、多数の用途を効能のある用途として列挙しがちな製薬分野等では、列挙されたすべての用途における有用性が立証されていないことがあります。そのため、utility無しとして特許無効になるケースが多数存在します。
 
<判決の要旨>
 本事件において最高裁は、1つの用途において有用であることが立証又は予測されればutilityが有り、約束されたすべての用途について立証する必要はないとして約束理論を否定しました。
 本事件を例にとると、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、Astrazeneca特許が目的とする2つの用途(プロトンポンプ阻害剤及び薬理動態改善)のうち後者については有用性が立証されていないと判じていました。これに対して最高裁は、Astrazeneca特許が提供するオメプラゾールの光学的に純粋な塩は胃酸の生成を低減するプロトンポンプ阻害剤として有用であることが示されているため、特許発明の有用性を構築するには十分であるとしてCAFCの判決を覆しました。
 
<判決がもたらす影響>
 今回の最高裁判決を考慮すると、明細書に記載されている用途のすべてについて有用性を証明していなくても、utility違反を理由に即特許が無効にされる自体は避けられるようになると予想されます。しかしながら、有用性を立証し得ない用途をむやみに記載すると、場合により、課題(当該用途において効果を奏すること)を解決する手段を提供していないとしてサポート要件違反に問われたり、虚偽内容を記載していると解釈されたりといった理由により特許の無効理由となる可能性は依然としてあることに注意が必要です。また、utilityは発明対象の本質に関係したものでなければならず、機械にオモリとしての用途があることなどは、当該機械のutilityを確立し得ません。
 

 
記事担当者:外国本部 特許部 桐内 優
 
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