ニュース

【英国のEU離脱(Brexit)が知的財産権に与える影響】

2021/01/13

1.概要

 2020年1月31日に英国はEUから離脱し、2020年12月31日に離脱協定に基づき英国にEU法が適用される期間(移行期間)が終了しましたので、2021年1月1日から離脱が実質的に発効しました。
 英国のEU離脱は、知的財産権のうち特に商標と意匠に大きな影響を与えますが、特許と著作権には殆ど影響を与えません(商標と意匠を管轄するEUIPO(欧州連合知的財産庁)はEUの機関であるものの、特許を管轄するEPO(欧州特許庁)はEUの機関ではないためです。)。
 そこで、以下では主に英国のEU離脱が商標と意匠に与える影響について述べます。
 

【この記事における用語の説明】
・欧州連合知的財産庁(EUIPO)へ直接出願して取得した商標権=直接出願によるEU商標権
・欧州連合知的財産庁(EUIPO)へ直接出願して取得した意匠権=直接出願によるEU意匠権
・マドリッドプロトコルに基づく国際登録のEU指定=マドプロに基づくEU商標権
・ハーグ協定に基づく国際登録のEU指定=ハーグ協定に基づくEU意匠権

2.商標と意匠に共通する取り扱い

  • (1) 同一の権利の自動生成
    • EU商標権やEU意匠権(※公告済みのもの。後述)と同一の権利が、英国知的財産庁(UKIPO)の英国登録簿に自動かつ無料で複製されました(通称:クローン。以下、クローン商標、クローン意匠と記載します)。

  • (2) 登録証

  • (3) クローン商標やクローン意匠の登録番号
    • クローン商標やクローン意匠の登録番号は以下のルールに基づいて付与されました。
    • ・直接出願によるEU商標権に基づくクローン商標
      • EU商標権の登録番号の前に「UKOO9」を付加。
    • ・マドプロに基づくEU商標権のクローン商標
      • マドプロ商標権の登録番号の前に「UKOO8」を付加。
    • ・直接出願によるEU意匠権のクローン意匠
      • EU意匠権の登録番号の前に「9」を付加。
    • ・ハーグ協定に基づくEU意匠権のクローン意匠
      • ハーグ意匠権の登録番号の前に「8」を付加。

  • (4) クローン商標やクローン意匠が不要の場合
    • UKIPOへ申請すれば(通称:オプトアウト)、クローン商標やクローン意匠は発生しなかったものとして取り扱われます。
    • 但し、譲渡やライセンスの対象となっている場合、係争の根拠になっている場合などは、オプトアウト出来ません。

  • (5) EUIPOに出願が係属中の場合(※EU意匠権のうち公告が繰り延べされているものも同様の取り扱い)
    • クローン商標やクローン意匠は自動生成されません。
    • EU商標権やEU意匠権と同一又は出願の範囲に含まれる内容について、英国での権利化を希望する場合、2021年9月30日までにUKIPOへ出願手続きを行わなければなりません(通称:再出願)。
      • ・通常の英国出願と同額の手数料を要します。
      • ・原出願日(EUIPOへの出願日)/優先日(第1国出願日)は維持されます。
    • EUIPOは上記の再出願の期限(2021年9月30日)について出願人に通知しませんのでご注意ください。

  • (6) UKIPOへの届出(英国内住所又は英国代理人)
    • 2024年1月1日以降、クローン商標やクローン意匠に関し何らかの手続きを行う場合、UKIPOへ英国内住所又は英国代理人を届け出る必要があります。

3.商標特有の留意点

  • (1) 更新手続
    • ① 2020年12月31日までに存続期間満了日を迎えたEU商標権で、更新済みのもの
      • 上記のEU商標権に基づくクローン商標についても更新済みの取り扱いとなり、UKIPOへの更新手続は不要です。
    • ② 2021年1月1日以降に存続期間満了日を迎えるEU商標権
      • 2020年12月31日までにEU商標権について更新手続きを行っていても、クローン商標についてUKIPOへ更新手続きが必要です。

  • (2) 不使用取消に関する留意点
    • EU商標も英国商標も、登録後継続して5年間、登録商標を使用していないと、不使用取消の対象となる可能性があります。
    • 2020年12月31日以前のEU加盟国でのEU商標の使用は、クローン商標の使用と認められます。
    • しかし、2021年1月1日以降にEU加盟国でクローン商標を使用しても、クローン商標の使用とは認められません。

  • (3) マドプロに基づくEU商標権に関する留意点
    • マドプロ商標権とは別にクローン商標が自動生成されるのであって、マドプロ商標権において自動的に英国が事後指定されるわけではありません。
    • マドプロ商標権においてEU商標権も英国商標権も一括管理したい場合は、英国を事後指定する必要があります。

4.意匠特有の留意点 ~公告を繰り延べている場合~

 意匠権が発生していても公告を繰り延べている場合、EUIPOに係属している扱いになり、クローン意匠は自動生成されません。英国での意匠権取得を希望する場合、2021年9月30日までに英国知的財産庁へ出願手続きを行う必要があります。
 なお、英国には意匠の公告繰り延べ制度はありませんでしたが、クローン意匠について最長12ヵ月まで公告を繰り延べられるような措置が取られました。

5.特許について

 欧州特許庁(EPO)はEUの機関ではないため、英国のEU離脱は現在の欧州特許制度には影響を与えません。また、英国をカバーする既存の欧州特許も影響を受けません。
 
 
本記事は2020年12月末時点で公表されている情報に基づいて作成しています。
今後の制度改正等により記載内容に変更が生じる場合があります点、ご了承ください。
 

以上

 
記事担当者:意匠商標室 野崎 彩子
 
本件に関して、ご不明な点などございましたら、下記お問合せフォームよりお気軽にお問い合わせ下さい。
(お問合せの際は記事のタイトル、弊所 担当者名をご記入いただくとスムーズな対応が可能です。)