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【中国】第4次専利法改正の要点及び主要改正条文(2021年6月1日施行)

2021/03/18

【中国】第4次専利法改正の要点及び主要改正条文(2021年6月1日施行)

 2020年10月17日の第13回全国人民代表大会常務委員会第22次会議において専利法改正に関する決定が可決され、この決定に基づいて改正された専利法は、2021年6月1日より施行されます。なお、中国における「専利法」とは、日本の特許法、実用新案法、意匠法を包含する法律です。審査指南や実施細則などの関連法令は未改訂ですが、詳細が明らかになりましたら、改めて弊事務所ホームページにて情報提供させていただきます。
 
 今回の改正は、専利権保護の強化、専利の実施と運用の促進、専利権付与制度の整備という3つの面に関しており、要点及び主要改正条文は以下のようになっています。
 

<要点>

  1. 意匠制度の整備(第2条、第29条、第42条)
     専利制度の国際調和の一環として、意匠制度が次のように改正されます。この改正により、意匠権を一層活用しやすくなります。
      • 部分意匠制度の導入(第2条)
      • 意匠の国内優先権の適用(第29条)
      • 意匠権の保護期間の延長(10年⇒15年)(第42条)

  2. 優先権書類の提出期限の一部緩和(第30条)
     発明及び実用新案の優先権証明書の提出期限は、最初に専利出願を提出した日から16か月以内に緩和されました。ただし、意匠の優先権証明書の提出期限は、依然として最初に専利出願を提出した日から3か月以内に制限されており、緩和されていません。

  3. 特許権の存続期間の補償(第42条)
     特許出願日から4年を経過し、かつ実体審査請求の日から3年を経過した後に特許権が付与された場合、国務院専利行政部門は特許権者の請求に基づき、特許の権利付与過程における不合理な遅延について特許権の存続期間の補償を与えることになります。
     この制度は、米国の特許期間調整(Patent Term Adjustment)制度に相当します。ただし、この制度をどのように運用するかは、今後、実施細則や審査指南の改正によります。

  4. 開放許諾制度の導入(第50条~第51条)
     この開放許諾制度は、権利者が専利権を開放宣言し、希望する第三者と実施許諾を交渉する制度です。専利権の取引・活用を促進する目的の規定となっています。
     更には、開放許諾期間において、権利者が納付すべき年金について免除ないし削減されます。権利者にとって、開放許諾は、権利の活用策の一環となり、年金の減免により費用の節減策にもなります。

  5. 専利権評価報告書の提出権者(第66条)
     従来、無審査である実用新案や意匠による訴訟において、裁判所から評価報告書を要求されることがあります。今回の改正により、権利者、利害関係者(実施権者)以外に被疑侵害者も、知識産権局に評価報告書を請求し、裁判所へ提出することができるようになります。
     これは、訴訟当事者の公平性、柔軟性、自発性の観点からの改正です。

  6. 専利行政機関の権限拡大(第70条)
     専利権の侵害・模倣を取り締まる行政機関の権限が拡大されます。すなわち、全国に重大な影響を及ぼす専利侵害事案や管轄の違う多地域における同一専利権の侵害事案は、上位行政機関により一括的に処理するように要請できるようになります。
     これは、複数の専利紛争事案の解決にあたり、その行政訴訟の効率化に繋がり、権利者にとっても権利行使が一層し易くなります。

  7. 権利侵害に係る損害賠償の拡大(第71条)
     専利権侵害の損害賠償金は最高5倍の罰則賠償が新設され、法定賠償額は3万元(最低額)~500万元(最高額)(日本円で約50万円~8500万円)に引き上げられます。更に被告の帳簿等の提出命令を裁判所に求めることができるようになります。
     これは、専利権の侵害行為を抑制し、専利権者の権利保護を強化する趣旨であります。

  8. 訴訟時効の期間の変更(第74条)
     今回の改正では、民法総則や民法典の規定にあわせて、訴訟時効が現行専利法の「2年」から「3年」に変更されました。

  9. 医薬品のパテントリンケージ制度の新設(第76条)
     医薬品のパテントリンケージ制度とは、医薬品販売許可の審査手続きを医薬品専利紛争解決手続きと連携することにより、後発医薬品(ジェネリック医薬品)に専利権侵害の疑いがある場合、国務院薬品監督管理部門が当該後発医薬品の販売許可の申請を拒絶することができるという制度を指します。その運用は、今後の実施細則、審査指南、弁法の改正によります。

 

<主要改正条文>

1.意匠関係
(1)部分意匠(定義)

第2条第4項
 意匠とは、製品の全体又は一部の形状、模様又はその組合せ並びに色彩と形状、模様の組合せに対して行われる、優れた美観に富み、かつ工業上の応用に適した新たなデザインを指す。

 
(2)意匠国内優先権

第29条第2項
 出願人が、発明又は実用新案について中国で最初に専利出願した日から12か月以内に、又は意匠について中国で最初に専利出願を提出した日から6か月以内に、また国務院専利行政部門に同一の主題について専利出願を提起する場合、優先権を享受できる。

 
(3)意匠存続期間

第42条第1項
 発明専利権の期限は20年とし、実用新案専利権の期限は10年、意匠専利権の期限は15年とし、いずれも出願日から起算する。

 
2.手続関係
(1)優先権主張の手続き

第30条
 出願人が発明専利、実用新案専利について優先権を要求する場合、出願時に書面による声明を提出し、かつ最初に専利出願を提出した日から16か月以内に、最初に提出した専利出願書類の副本を提出しなければならない。
 出願人が意匠専利について優先権を要求する場合、出願時に書面による声明を提出し、かつ3か月以内に、最初に提出した専利出願書類の副本を提出しなければならない。
 出願人が書面による声明を提出せず、又は期限を過ぎても専利出願書類の副本を提出しない場合は、優先権を要求しなかったものと見なす。

 
(2)特許権存続期間の補償請求制度

第42条第2項(新設)
 発明専利の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門が専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与過程における不合理な遅延について専利権の期間の補償を与える。ただし、出願人に起因する不合理な遅延は除外する。
 
第42条第3項(新設)
 新薬の販売承認審査にかかった時間を補償するために、中国で販売許可を得られた新薬に関連する発明専利について、国務院専利行政部門は専利権者の請求に応じて専利権の存続期間の補償を与える。補償の期間は5年を超えず、新薬販売承認後の専利権の合計存続期間は14年を超えないものとする。

 
3.専利権取引関係
(1)開放許諾制度

第50条(新設)
 専利権者が自ら書面にて国務院専利行政部門に、如何なる単位又は個人の当該専利の実施を許諾する意思がある旨の声明を行い、かつ許諾実施料の支払方式、基準を明確にした場合、国務院専利行政部門はこれを公告し、開放的許諾を実施する。実用新案、意匠専利について開放的許諾声明を提出する場合、専利権評価報告書を提供しなければならない。専利権者が開放的許諾声明を取り下げる場合は、書面により提出しなければならず、かつ国務院専利行政部門がこれを公告する。開放的許諾声明の取り下げが公告された場合、先に与えられた開放的許諾の効力には影響を及ぼさない。
 
第51条(新設)
 如何なる単位又は個人も開放的許諾に係る専利を実施する意思がある場合、書面にて専利権者に通知し、かつ公告された許諾実施料の支払方式、基準に従って許諾実施料を支払うことにより、専利実施許諾を受けることができる。開放的許諾の実施期間において、専利権者に対して専利年費の納付については、減免する。開放的許諾を実施する専利権者は、被許諾者と許諾実施料について協議の上、通常実施権を付与することができるが、当該専利について専用又は排他的実施権を付与してはならない。
 
第52条(新設)
 当事者は開放的許諾の実施について紛争が生じた場合、当事者間の協議によって解決する。協議する意向がない又は協議が成立しない場合、国務院専利行政部門に調停を請求することができ、また人民法院に提訴することもできる。

 
4.専利権訴訟関係
(1)権利濫用禁止

第20条(新設)
 専利出願と専利権の行使は信義誠実の原則を遵守しなければならない。専利権を濫用して公共利益又は他人の合法的な権益を害してはならない。
 専利権を濫用して競争を排除し又は制限し独占行為を構成した場合、「中華人民共和国独占禁止法」に従って処理する。

 
(2)実用新案・意匠の評価報告書

第66条第2項(現行専利法第61条第2項)
 専利権侵害紛争が実用新案専利又は意匠専利に係る場合、人民法院又は専利業務管理部門は専利権者又は利害関係者に対し、専利権侵害紛争を審理し、処理するための証拠として、国務院専利行政部門が関連の実用新案又は意匠について検索、分析、評価を行ったうえ作成した専利権評価報告書を提出するよう要求することができる。専利権者、利害関係者又は被疑侵害者は自発的に専利権評価報告書を提示することもできる。

 
(3)専利行政機関の権限

第70条(新設)
 国務院専利行政部門は、専利権者又は利害関係者の請求に応じて、全国的に重大な影響を有する専利権侵害紛争を処理することができる。
 地方人民政府の専利業務管理部門は、専利権者又は利害関係者の請求に応じて専利権侵害紛争を処理するにあたって、本行政区域内において同一の専利権を侵害した事件については併合して処理することができる。地域を跨って同一の専利権を侵害した事件については、上級の地方人民政府の専利業務管理部門に処理を請求することができる。

 
(4)損害賠償額の算定及び故意侵害に対する懲罰的損害賠償

第71条1項(現行専利法第65条第1項)
 専利権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害によって受けた実際の損失又は権利侵害者が権利侵害によって得た利益に応じて確定する。権利者の損失又は権利侵害者が得た利益の確定が困難である場合、当該専利の許諾実施料の倍数を参酌して合理的に確定する。故意に専利権を侵害し、情状が深刻である場合、上記方法で確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償金額を確定することができる。

 
(5)法定損害賠償額の引き上げ

第71条2項(現行専利法第65条第2項)
 権利者の損害、権利侵害者の得た利益、専利許諾実施料を確定することがいずれも困難である場合、人民法院は専利権の種類、権利侵害行為の性質及び情状等の要素に基づき、3万元以上500万元以下の賠償を認定することができる。

 
(6)書類提出命令

第71条4項(新設)
 人民法院は賠償金額を確定するために、権利者がすでに立証に力を尽くしたにもかかわらず、権利侵害行為に係る帳簿、資料が主に権利侵害者に把握されている状況下では、権利侵害行為に係る帳簿、資料の提供を権利侵害者に命じることができる。権利侵害者はそれを提供せず、又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参考にして賠償金額を判定することができる。

 
(7)訴訟時効

第74条(現行専利法第68条)
 専利権侵害の訴訟時効は3年とし、専利権者又は利害関係者が権利侵害行為及び侵害者を知った日又は知り得た日より起算する。
 発明専利の出願公開から専利権付与までの間に当該発明が使用され、かつ適当額の使用料を支払われていない場合、専利権者が使用料の支払いを要求する訴訟時効は3年とし、専利権者が、他人がその発明を使用していることを知った日又は知り得た日より起算する。ただし、専利権者が専利権付与日以前に知っていた場合又は知り得た場合は、専利権付与日より起算する。

 
(8)医薬品のパテントリンケージ制度

第76条(新設)
 薬品販売承認審査において、薬品販売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権について紛争が生じた場合、関連当事者は人民法院に提訴し、登録出願された薬品の関連技術方案が他人の薬品専利権の保護範囲に含まれているかどうかを判決するよう請求することができる。国務院薬品監督管理部門は規定された期限内に、人民法院による発効した判決により、関連薬品の販売許可を一時中止するかどうかの決定を下すことができる。
 薬品販売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を請求することもできる。
 国務院薬品監督管理部門は国務院専利行政部門と共同して、薬品販売の承認と薬品販売許可申請段階の専利権紛争解決の具体的整合性のある弁法を制定し、国務院に報告して承認を得てから施行する。

 
 
全国人民代表大会常務委員会《中華人民共和国専利法改正》に関する決定
https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/10/18/art_2197_153643.html
中華人民共和国専利法(2021年6月1日施行)
https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/11/23/art_2197_155169.html


 
記事担当者:外国情報グループ アジアチーム(中国・台湾担当) 中国弁理士 林 雅倩
 
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