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所長メッセージ

2018/09/19
クローズ戦略と秘密保持リスク


 ここ数十年にわたって、日本製品の国際競争力が弱くなっています。これは、日本企業の優秀な技術情報が海外に流出し、追従品が多く出回ったことが大きな原因です。このような状態は、残念ながら現在も続いています。
 自社技術の優位性を確保するための対応として、オープン戦略とクローズ戦略があります。出願をして特許権の獲得を目指す場合には、出願した内容は後に公開されますので、オープン戦略といえます。反対に、特許出願しないで秘密にするクローズ戦略では、特許権は得られませんが、公開されないので、模倣される原因にはなりません。
 オープンとクローズの使い分けは、技術の種類によります。販売した製品を見たり、分解したりすれば、新技術の内容が判ってしまうのであればクローズ戦略は向いていません。しかし、販売した製品からは読み取れない新技術もあります。製品の作り方、材料、配合方法などです。これらの技術は秘密が保てる限り、特許権を取得するよりも優位な戦略となることも多くあります。製品の構造や動きは、特許で公開された内容を見ればわかりますが、どのような材料を使ってどのように製造するかなどの各種の秘密情報がないと、同じものは出来ないからです。
 これらの秘密情報は、社外へ漏れないように厳重に管理する必要がありますので、社内の仕組みが重要です。製品を見ても秘密情報が理解できないようにする製品管理や、社外へ出される書類や図面の管理です。ほかにも、最も重要なものが従業員などの人を介して情報が漏れないようにする管理です。秘密情報は一度漏れると取返しのつかない状態に陥ります。過去にも、大手の鉄鋼会社や半導体製造会社の先端技術が海外へ違法に流出し、甚大な損害が発生した事件は有名です。しかも、これらの技術漏洩は、漏れたことや、漏れた時期も判りづらく、気が付いたときには、既に大事になっていることが多いのが実情です。
 さらには、このような秘密の技術情報と同じものが他社によって特許になるリスクを避けるための対策も必要です。このような最悪の事態を避けるためには、他社の特許出願よりも先に実施していたことを証明できるように、準備をしておく必要があります。
 このような危ない橋を渡るような対応をしてまでも、秘密にする価値のある重要な技術も多くあります。クローズ戦略の相談案件が最近増えていますが、特許出願と違って個別対応が必要ですので、対応策も多岐に亘ります。他社の追従をどこまで読み切れるか、またそのための知的財産マネジメントを日頃からどのように準備しておくかが重要な対応事項となります。
 
太陽国際特許事務所
会長 中島 淳