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「ノウハウと特許の使い分け」シリーズ
  第5回 特許出願は余分な記載をすると危険がある?

2020/09/07(更新:2020/11/13)

1.特許明細書の役割は2種類です

 特許出願する場合に、発明した技術内容を記載しますが、これらは大きく分けて2種類の記載部分があります。その1番目は、特許出願したアイデアの中で、自分が特許にしたい内容を記載する部分であり特許請求の範囲と言います。2番目は特許出願したアイデアの内容を説明する部分であり明細書と言います。今回は、そのうちで、2番目の記載である自分のアイデア内容を説明する部分についての良し悪しを解説します。
 特許出願する目的は特許権を得るためですので、1番目の特許請求の範囲だけを記載し、2番目の明細書の部分は記載しないことが可能であればそれが最も得なやり方なのです。しかし、それは出来ないことになっています。特許制度はギブ アンド テイクの精神が基本だからです。自分が発明した新しいアイデアについて特許権を得るためには、そのアイデアを他人が実施できる程度に説明して社会に貢献しなくてはならず、それを記載する部分が明細書です。

2.特許明細書の内容は明確に記載する

 特許の明細書は専門用語が多く、何を書いているのか良く理解できない。なるべく他人に理解できないように判りづらく記載するのが良い。などど、以前の技術者や特許関係者の言葉がありました。しかし、難解な部分や多義的な部分のある明細書や特許請求の範囲では、権利範囲も不明確になり自分にも不利になりますので、現代的な考え方とは言えません。記載内容は疑義の無いように明確に記載する必要があります。
 その上で、課題は何を記載するかです。特許を取得するためには関係のないことや、余分な記載のある明細書を見ると、損な書き方をしていると感じることがあります。特許請求の範囲に記載したアイデアを同業者が理解し実施することができる程度に明確で十分な記載があれば良いのです。明細書は製造図面や製造指示書ではありません。アイデアを具体的な形で説明し、それを読む技術者がそのアイデアをもとに、通常の技術力を発揮して製品化できる程度の記載であれば良いのです。製品化できると言っても、最高品質の製品ができることを保証する明細書である必要はありません。説明のために明細書に添付する図面は、設計図のように寸法や部品図、さらに工程指示書などは必須ではありません。

3.ノウハウを記載する必要性を考える

 特許請求の範囲に関係のない、自社の秘密技術やノウハウを明細書や図面に記載するということは、これらを無料で提供しているのと同じことになります。では、これらを記載するのは全く無意味かというと、それは場合によります。特許明細書や図面が公開されると、それ以降は他人がその部分や類似範囲について特許が取れなくなりますので、防衛的な役目はあります。
 このように、特許出願の際に、明細書や図面にどの程度の内容を記載するかは、将来の損得を考慮して慎重に判断する必要があります。自社技術の現状を考慮しながら、このような決定をするのが、知的財産担当者の重要な役目です。
 


 
記事担当者:知財ソリューション部
 
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