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企業の知財部員及び発明者がテレワークを行う場合の留意点

2020/07/03

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け、自宅での「テレワーク」を導入する企業が増えています。
 テレワークを新たに導入する場合、これまで社内でのみ扱われていた秘密情報を社外に持ち出す場合が出てきています。
 このような情勢を踏まえて、経済産業省では、2020年5月7日に「テレワーク時における秘密情報管理のポイント(Q&A解説)」(以下、「Q&A」と略します。)を公表しました。
 
<テレワーク時における秘密情報管理のポイント(Q&A解説)>
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/teleworkqa_20200507.pdf
 
 以下では、Q&Aを参照しつつ、企業の知財部員及び発明者がテレワークを行う場合の留意点について紹介いたします。

1.はじめに

 秘密情報が不正競争防止法における営業秘密として保護されるためには以下の要件を具備する必要があります(2条6項)。
 

    • ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
    • ② 有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
    • ③ 公然と知られていないこと(非公知性)

 
 上記の3要件を満たす営業秘密は、その不正な取得や使用等に対し、営業上の利益を侵害された者からの差止め、損害賠償請求などの民事救済措置のほか、侵害行為を行った者に対する刑事的措置(懲役刑・罰金刑)を採ることができます。

2.テレワーク時における営業秘密の取り扱いについて

 Q&Aには、営業秘密として保護されるためのポイント、事前の対策、及び注意すべき事項がテレワークの態様に応じて紹介されている。Q&Aのポイントをまとめると以下のとおりです。
 

(1)秘密情報が含まれる媒体の扱い

 テレワークでは、秘密情報を社外に持ち出す、社外からアクセスする、クラウド上に保存する等、社外において扱うことが想定されます。社外に持ち出す場合は、紙媒体のみならず、電子データも含まれます。秘密情報を社外で扱う場合、上述した「明確化」を図り、「予見可能性」を確保するためには以下の対策をとる必要があります(Q1~Q5、Q8参照)
 

    • ・情報の性質に応じた当該情報への適切なアクセス権者の設定
    • ・「㊙」(マル秘)・「社内限り」といった秘密であることの表示の付記
    • ・ID・パスワードの設定

 
 これらの対策は、テレワークに限ったことではなく、社内において秘密情報を扱い場合も同様です。
 

(2)社内規定の見直し

 Q&Aでは、営業秘密管理規程や情報取扱規程、セキュリティ規程等において、「秘密情報の社外への持ち出し禁止」などとのみ規定されている場合には、テレワークの実施によって、当該規程等が形骸化することになり、ひいては、従業員の予見可能性を減退させる可能性も出る旨の指摘があります(Q1参照)
 このため、「予見可能性」を確保するためには以下の対策をとる必要があります(Q1~Q5、Q8参照)
 

    • ・営業秘密管理規程や情報取扱規定、セキュリティ規定等の社内規程がテレワークに即した内容になっているかの確認・改訂
    • ・当該諸規程について従業員(派遣労働者も含みます。)への周知徹底(メールによるリマインドやe-ラーニングの実施等)

 

(3)自宅外でのテレワークの留意点

 自宅に限らず、シェアオフィス等の不特定多数が出入り可能な場所でテレワークを行う場合も考えられます。このような場合、以下の点に留意する必要があります(Q6、Q9参照)
 

    • ・紙の資料・PC等を机上等に放置しないことに関するルールの徹底
    • ・PCにのぞき見防止フィルム等を貼付することの徹底
    • ・いわゆるオンライン会議は、他人がいる場所では控える

 

(4)セキュリティの確保

 自宅から社内サーバやクラウドにアクセスする場合、自宅外で無線LANを利用する場合、並びにオンライン会議及びチャットツールを使用する場合には、セキュリティを十分に確保する必要があります(Q5、Q6、Q9、Q10参照)
 例えば、外部クラウド上の不特定多数の者が閲覧可能なフォルダ等に営業秘密をアップロードしてしまった場合、「非公知性」の要件を満たすことができず、法的な保護を受けられないおそれが生じます(Q5参照)
 また、公衆無線LANを使用したり、セキュリティレベルの低いオンライン会議サービス、チャットツールを使用した場合、秘密情報が漏洩する可能性がある点に留意すべきです(Q6、Q9、Q10参照)

3.企業の知財部員及び発明者がテレワークを行う場合の留意点

 企業の知財部員及び発明者が取り扱う発明は、技術情報としての営業秘密と捉えて、2.で紹介した対応を採るべきです。
 特に発明の内容が含まれる情報には、「㊙」(マル秘)・「社内限り」といった秘密であることの表示の付記をすることが重要です。ただし、出願公開された包袋書類に対して秘密であることの表示を付した場合、既に秘密状態が解除された情報を営業秘密と同等に扱うことになり、「予見可能性」を損なうおそれがあります。
 社内において知財担当者と発明者との相談、及び発明者と特許事務所との面談を行う場合、オンライン会議を利用する場合がありますが、この場合、オンライン会議に第三者が入り込まないような方策を採る必要があります。また、会議内容の傍受に備え、資料を必要以上に画面共有しない等の措置を講ずる必要があるかと思います。

 

「テレワーク時における秘密情報管理のポイント(Q&A解説)」(経済産業省ウェブサイトより) 

以下のQ1~10をクリックすると、経済産業省ウェブサイトの該当解説ページが開きます。


 
記事担当者:特許2部 石田 理
 
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