日本における審理状況
2023/03/31(最終更新日:2025/02/12)
日本における審理状況
日本におけるDABUSプロジェクトは、2020年8月5日に国際出願PCT/IB2019/057809(WO2020/079499)を日本特許庁に国内移行することによりスタートしました。
国内書面には、以下の発明の名称及び発明者を記載いたしました。
発明の名称: フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置及び方法
発明者: ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能
発明者としてAIプログラムの名称(「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能)を記載いたしましたが、これは、PCT国際出願における発明者欄の記載"DABUS, The invention was autonomously generated by an artificial intelligence"に沿ったものです。
国内移行以降の経緯は以下の通りです。
- 2020年 8月 5日 : 日本国内移行手続き
- 2021年 7月30日 : 手続補正指令
- 2021年 9月30日 : 上申書提出
- 2021年10月13日 : 出願却下処分
- 2022年 1月17日 : 行政不服審査法による審査請求書提出
- 2022年 8月19日 : 諮問事件の通知書(担当部会:第3部会)
- 2022年 9月12日 : 答申書
- 2022年10月12日 : 裁決書
- 2023年 3月27日 : 東京地方裁判所へ訴状提出(行政事件)
- 2024年 5月16日 : 東京地方裁判所 判決
- 2024年 6月24日 : 知的財産高等裁判所へ控訴
- 2025年 1月30日 : 知的財産高等裁判所(第2部) 判決
本特許出願では、発明者としてAIプログラムの名称(「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能)を記載しておりました。日本特許庁は、発明者の表示は自然人に限られ、AIを発明者として記載することは認めないとの立場をとっています。この立場については、特許庁ホームページ「発明者等の表示について」( https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/hatsumei.html )に掲載されています。特許庁は本特許出願に対して補正指令を発令し、出願人が発明者の表示を補正しなかったことから、出願却下の処分が下されました。これに対して出願人は行政不服審査法による審査請求を行っておりましたが、認められませんでした。
これに対して、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を東京地方裁判所に提起し、判決が2024年5月16日に言い渡されました。
<判決文>
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/981/092981_hanrei.pdf
東京地裁判決では、現行特許法における「発明者」はAIを想定しておらず、自然人に限られるため、発明者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載された本件特許出願に対する出願却下処分は適法であるとして、原告の請求を棄却しています。
なお、判決文には以下の事項が付言されておりました。
- AIの自律的創作能力と、自然人の創作能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得る
- AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方
- 当時想定していなかったAI発明については、現行特許法の解釈のみでは、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた的確な結論を導き得ない派生的問題が多数生じる
- まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されている
地裁判決に対して控訴し、2025年1月30日に知的財産高等裁判所から判決が言い渡されました。
判決では、現行の特許法は自然人が発明者である発明についてのみ特許を受ける権利を認めているため、AIによる発明には特許を付与することはできないとされました。また、「AI発明が特許法上の『発明』の概念に含まれるか否かについて判断するまでもなく、特許法に基づきAI発明について特許付与が可能である旨の原告の主張は、理由がない」として、原告の訴えを棄却し、AIが自律的に創作した発明を特許で保護すべきか否かについては具体的な判断を示しませんでした。
さらに、現行の特許法は発明者が自然人であることを前提として制定されており、AIによる発明に特許権を付与するか否かは現行法の解釈の範囲では対応できないとしました。知財高裁は、AI発明に特許権を付与するか否かについては、AI発明が社会に及ぼす多様な影響を考慮し、広汎かつ慎重な議論を踏まえた立法化のための議論が必要であるとして、地裁判決と同様に立法による解決に委ねるとの判断を示しました。
<裁判例結果詳細 | 知的財産高等裁判所 - Intellectual Property High Courts>
https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=6300
記事担当者:副所長(執行役)外国統括管理部 設楽 修一
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