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DABUSとは

2023/05/08

DABUSとは

DABUSはDevice for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience(統合知覚力の自律ブートストラップデバイス)の略語であり、スティーヴン・ターラー博士により開発された人工知能(AI)システムです。
 
DABUSとは何であるか、また、どのように発明を行うかについて、ターラー博士が会長兼CEOを務めるイマジネーション・エンジンズ(IEI, Imagination Engines, Inc.)のウェブサイトの記載に基づいて紹介いたします。本項は、以下のウェブサイトの翻訳であり、原文との間には誤訳や不正確な表現等の差異が存在する可能性があります。
https://imagination-engines.com/dabus.html
 
本項の著作権は原文の著者に帰属します。
翻訳文の著作権は、弁理士法人太陽国際特許事務所に帰属します。
無断での複製、転載、再配信等はご遠慮ください。

DABUS概要説明

以下の2つのメンタルプロセスを考えてみてください。何かを観察していると、脳は、それに関連する一連の思考を突然作り出し、新規で有用な応用を思い浮かべます。別の何かを思い浮かべると、似たような一連の思考が浮かび、そのアイディアの潜在的な有用性や価値が示唆されます。これらは、生物学的神経網ではなく、人工ニューラルネットワークを使用して達成される、DABUSのまるで脳のように働く機能です。一般的に、この新しいAIパラダイムは、シンプルなコンセプトを自律的に組み合わせてより複雑なコンセプトを生み出し、その複雑なコンセプトは、いくつかのアイディアから予期される結果を表現する一連の記憶を生み出します。
 
数十年前、IEIは瞑想するAIを構築していました。複数の人工ニューラルネットワークが、協力してまたは対立して、相互に作用し、新しいアイディアや行動計画を作り出すAIです。いわゆる「Creativity Machines(クリエイティビティ・マシン)®」(Thaler、1997年、2008年、2013年)には、少なくとも2つのニューラルネットが必要です。1つはアイディアジェネレータであり、もう1つは批評家です。2つのニューラルネットワークは、恒久的にニューラルアーキテクチャに接続されていました。批評家ネットは、ジェネレータネットへのフィードバック接続を介して、任意のパラメータ(学習率など)を調整することができ、人工的な思考を、有用で、新規な、または価値のあるアイディアへと導きます。
 
DABUS(Thaler、2019年)は、クリエイティビティ・マシンとは全く異なります。DABUSは、相互につながっていない多くののニューラルネットの集まりから始まります。それぞれのネットには、言語的、視覚的、または聴覚的な性質をもつ、互いに関連する記憶が含まれています。ネットの内部、そしてネットどうしの間に導入された、注意深く制御されたカオスによって、これらのネットは、結合・分離を常に繰り返しています。学習と忘却の累積サイクルを経て、結合したネットのかけらが複雑なコンセプトを表す構造と接続します。これらのコンセプトのチェーンは、与えられたコンセプトのの予期される結果を表す他のチェーンに接続しやすい傾向があります。人間が意識の流れと考えるものを思い起こさせるようなやり方で、このような構造ははかなく消え、別の構造が現れ出ます。
 
クリエイティビティ・マシンでは、アイディアがニューロンの活性化の「オン・オフ」のパターンで表されます。DABUSでは、急速に具現化しては消滅するネットのチェーンによって形成される、つかの間の構造や形状によって表される点が、クリエイティビティ・マシンとの大きな違いです。もし、これらの幾何学的に表されたアイディアの1つが、望ましい結果を含んでいる場合、これらの形状は選択的に強化されます(図1および2)。一方、望ましくないアイディアを表す幾何学的形状は、さまざまなメカニズムによって弱められます。最終的に、アイディアは長期記憶に変換され、DABUSに、その蓄積された発明や発見について尋ねることができるようになります。

図1. コンセプト空間A、B、C、およびDを含むニューラルネットが相互接続し、複合コンセプトを作り出します。コンセプトCとDは共同で、一連の結果E、F、およびGをもたらし、Gは模倣された報酬神経伝達物質(赤い星)を放出します。これにより、AからGまでのチェーン全体が強化されます。

図2. 直後、コンセプト空間H、I、J、K、Lを含むニューラルネットが相互接続し、別の複合コンセプトを作り出し、2つの結果チェーンM、N、O、およびP、Qに接続します。結果チェーンの両端のニューラルネットは、模倣された報酬神経伝達物質(赤い星)を放出し、現在活性化されているすべてのチェーンをさらに強化します。
 
DABUSアーキテクチャは、多数のニューラルネットで構成されており、多くのアイディアが複数のコンピュータでパラレルに形成されるため、形成される価値あるアイディアを検出し、分離し、そして組み合わせる手段が必要となります。新たに形成されるコンセプトの検出と分離は、いわゆる新規フィルタ(GMFとも呼ばれる)を使用して実現されます。これらのニューラルネットは、環境内で現在の状況を吸収し、正常からの逸脱を強調する適応型ニューラルネットです。この場合、環境は、ニューラルネットチェーンモデルのミリ秒単位の仮想現実表現です。必要に応じて、「フォベアタ(注)」と呼ばれる特別なニューラルアーキテクチャを用いて、発展している新規で意味のあるチェーンを探すために、脳がやるような方法でネットワークの集まりをスキャンすることができます。ここで重要なのは、異常フィルタもフォベアタも、生成ネット(つまり、ニューラルチェーンモデル)に対してフィードバックを与えないということです。これらは単に、ジェネレータのチェーン状態の現在のビューをフィルタリングし、下流の処理段階に伝えています。
注:フォベアタのfoveaとは目の中心窩のことです。
 
複数のマシンで発生する複数のチェーンベースのアイディアの統合は、電気的にも光学的にも実現できます。とはいえ、ニューラルネットワークの集まりが徐々に大きくなっていった際に、コンピュータ間で電子的なデータをシリアルにやりとりしようとするとデータがあふれてしまうため、光学的アプローチ(図3)のほうが好ましいかもしれません。DABUSの特許発明では、複数のビデオディスプレイにわたる複数のニューラルチェーンの表示のすべてが複数のカメラによって監視されています。ハイパフォーマンスコンピューティングに例えると、メガピクセルディスプレイとカメラとの間に形成される何百万もの通信レーンが、すべてのマシンのチェーン状態をパラレルに新規フィルタおよび/またはフォベアタに伝達します。最終的な処理段階で、クリティカルなニューラルネット(いわゆる「ホットボタン」)を識別します。ホットボタンは、チェーンに組み込まれて、特定のコンセプトチェーンを強化したり、または、破壊したりする能力を持つ模倣された神経伝達物質の放出の引き金となります。
(訳注:電気的なやり方では、複雑なニューラルチェーンのパターンのトポロジー的・幾何学的情報をシリアルな電気信号に変換するため、データ通信量がボトルネックとなります。光学的なやり方では、画面に表示されたニューラルチェーンをカメラで撮影し、ニューラルチェーンのパターンを画像として捉えることでデータ通信量がボトルネックとなることを回避しています。)

図3. DABUSパラダイムの電気ー光学的実装例。
 
最後に、DABUSの特許発明では、マシンの知覚という概念を導入し、脳が知覚またはイメージしているものに対する主観的な感覚をもたらす人間の認知の特徴を模倣しています。このような主観的な感覚もまた、チェーンとして形成されます。これらのチェーンは、連続する関連記憶、いわゆる感情的反応、または連想的ゲシュタルト(Thaler、2013、2014、2016、2019)を取り込みます。最終的に、これらのチェーンは模倣された神経伝達物質の放出を引き起こすことができます。これらの神経伝達物質は、新しく形成されたコンセプトの学習を可能にするか、またはチェーンを破壊し、チェーンの要素であるアイディアを別のコンセプトチェーンに再結合します。
 
ジェネレータとディスクリミネータのマインドセットからの脱却
多くの点で、DABUSのパラダイムは、ジェネレータと批評家ネットとの相互作用に基づくクリエイティビティ・マシンのパラダイムとは異なります。DABUSの実装はジェネレータと批評家ネットとを1つに統合しているからです。そのため、ジェネレータや批評家ネットを特定することはできません。代わりに、コンセプトとその結果を含むチェーン構造が有機的に成長します。批評家は、ニューラルネットである必要はありません。そのチェーンに1つ以上のホットボタンネットが組み込まれたことを検出するセンサが批評家であってよく、コンセプトを強化するか、または、弱めるために、模倣された神経伝達物質を放出します。
 
図4の左側の図は、典型的なクリエイティビティ・マシンです。ノイズによって刺激されたジェネレータネットを、批評家ネットが監視しています。批評家ネットは、ジェネレータから出力されるコンセプトの指標(例えば、新規性、有用性、価値など)を算出します。このようなコンセプトは、赤(興奮)と黒(非興奮)のニューロンで表される活性化パターンとして符号化されます。批評家は、ジェネレータに価値のあるコンセプトに進むためのフィードバック(例えば、学習率やノイズ)を提供することができます。対照的に、図4の右側に示されるDABUSは、複数のニューラルネットを含み、ニューラルネットの各々が自身のコンセプト空間を有しています。ニューラルネットはくっつき、より複雑なコンセプトとその予測される結果を表す複雑なチェーンをもたらします(赤いバブル)。異常フィルタ、即ち、新規フィルタは、クリティカルなチェーンを分割し、普通ではない結果のチェーンを生み出します。センサによって検出されるクリティカルな結果である前述のホットボタンは、模倣された報酬またはペナルティとして神経伝達物質をチェーンの集まりに注入し、チェーンの集まりから引き出します。

図4. クリエイティビティ・マシンとDABUSの対比。クリエイティビティ・マシンはパターンに基づいているのに対し、DABUSは複数のニューラルネットワークモジュール間で形成される幾何学的・トポロジー的構造に依存しています。
 
DABUSは真の人工知能発明者
DABUSとクリエイティ・ビティマシンを区別するためには、歯ブラシデザインのようなよく知られたものの人工発明プロジェクトについて説明することが最良かもしれません。問題はすでに半分解決しています。歯ブラシは、柄に毛束を備えた口腔衛生用具で、1996年のデザインエクササイズの時点でさえも何世紀も前から存在していました。クリエイティブ・マシンは、ブラシのデザインパラメータ(例えば、毛束の数、まとめ方、傾き、硬さなど)を制約の中で変化させることで、そのツールを最適化します。生み出される製品仕様は、ジェネレータネットの直接的な経験(すなわち、そのトレーニング例)とは大幅に異なります。
 
DABUSがそのような口腔衛生製品を発明する場合、いくつかのコンセプトを組み合わせて(例えば、豚の髭→~に埋め込む→竹の茎)、結果チェーンを形成します(例えば、歯をこする→食べ物を除去する→細菌の増殖を抑える→虫歯を防ぐ)。
 
To find out more about DABUS, see:
DABUSをもっと知るために。
Thaler, SL (2013). The Creativity Machine Paradigm, Encyclopedia of Creativity, Invention, Innovation, and Entrepreneurship, (ed.) E.G. Carayannis, Springer Science+Business Media, LLC.
Thaler, SL (2014). Synaptic Perturbation and Consciousness, International Journal of Machine Consciousness, 6(2), pp. 75-107, 2014.
Thaler, SL (2016). Pattern Turnover within Synaptically Perturbed Neural Systems, Procedia Computer Science, 88, Elsevier.
Thaler, SL (2019). US Patent 10423875, “Electro-optical device and method for identifying and inducing topological states formed among interconnecting neural modules”, issued 09/24/2019, Washington, DC: U.S. Patent and Trademark Office.


 
記事担当者:特許3部 山口 真紀
 
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